何だって僕の思い通りに動いていると信じて疑わなかった。
全てのものが僕のもの。
だって、僕は勝者なんだから。

"僕はマリオネット"

記憶が歪み出した。
俺はどうしてこんな所で寝ているのだろう。
真っ白な天井を見上げながら、ボンヤリと溜め息を吐いてみる。
息すら吐いているのか、分からない。
―哀しいね。
何が。
耳の奥で泣いているような、笑っているような声が聞こえたような気がして、俺は思わず問いかける。
―君がだよ…君が、哀しい。
クスクスと笑い出した声に敵意を感じ、俺は拳を突き出す。
何が可笑しいのか分からなかった。
そもそも、何故俺はこんな所にいるんだ?
―迷ってるの?迷っちゃ駄目だよ、こんな所で。
君は僕なんだから。
今度は確かに気配を感じ、俺はすぐさま身体を起こした。
「遅いよ、気付くのが…ずっと此処に居たっていうのに」
「……お前、誰だ」
『俺達』は正面から向かい合っていた。
弧を描いた唇と人を見下すように細められた瞳。
血を滾らせるようなその緋色の髪も苛立ちを隠せずに舌を打つ仕草すらも全て、『俺』だった。
「何を驚く必要がある?君は僕であって君は僕だ」
だから君に逢うのなんて造作もない事なんだよ―嘲笑を浮かべるその表情ですら俺のままで、吐き気が込み上げる。
「…僕が気持ち悪い?」
「非現実的だ…ドッペルゲンガーでもこうはいかない」
「…ハハ、流石に僕といった所か…論理的で簡潔な判断だ」
『俺』が乾いた笑い声を上げて一歩、足を進める。
「……寄るな」
「どうして?僕が怖いの?」
また一歩、『俺』が近付いてくる。
言い知れぬ感情がグルグルと頭を占めていく、それが怖かった。
「良い、顔だね…僕に怯えてる」
―でも、それは僕じゃあないよ。
グッと『俺』との距離が縮み、今にも噛み付かれそうだ。
顔を逸らそうにも射抜かれそうな視線がそれを許さない。
「……僕にはね、恐怖の対象があってはいけないんだよ」
僕は絶対的な勝者だからね、などと平然と言いのけるその姿は酷く傲慢で、俺は苛立つ。
「勝者に絶対は無い…!!」
勝者は常に敗北と隣り合わせの存在だった―例え自分がずば抜けた才能を持っていたとしても。
「ふぅん…?僕でもそんな事を言うんだね?」
「勿論だ…勝者も敗者も戦いになれば誰もが挑戦者だ」
くだらない自尊心に囚われてはいけない。
自らの力を過信し、驕りを持った者が堕ちていくのを何度も見ていた。
彼らと同じ道を辿ってはいけないのだ―俺も、アイツらも。
「…面白い事を言うんだね、感心しちゃったよ」
「当たり前の事だ…お前がおかし「でもいらないな、そういうの」
シュ、と風切り音が耳を掠め、頬には紅が滲んだ。
「僕は全てに勝ち、あらゆるものを手に入れたんだ…だから恐れるものは何もないし、それを恥じる必要だってない―何故なら、」
僕は勝者だから。
慈愛に満ちた口付けと同時に何かを抉られるような感覚が全身を包む。
「僕の邪魔をする者は排除する―それが『僕』自身であったとしてもね」

記憶が、歪んでいく。

To be continued...?