フルリと身体を震わせる冷気にボンヤリとしていた頭が徐々に覚醒していく。
カーテンの隙間から射す光はまだ浅く、眠りについてからそう時間が経っていない事を示していた。
折角の休みだというのに、ついつい早朝に起きてしまうのは癖だとしか言いようがない。
もう一眠りしようかと寝返りを打てば、そこには珍しくスヤスヤと眠る古橋の穏やかな表情があった。
『夜、眠れないんだ』
一度だけ、古橋が少しだけ眉を寄せながら溜め息混じりに言っていたのを覚えている。
原因は何だったか忘れた(…というよりも言っていなかった気がする)が、とにかく花宮が目覚める頃にはすでに古橋は活動を始めている事がほとんどだった。
―ホント、珍しい。
規則的な寝息を立てて一向に目覚める気配のない古橋の様子に、思わずちょっかいを出したくなる花宮であったが、流石に止めた。
いつもは無感情な瞳と達観した様な口振りのせいで年上の様な雰囲気を漂わせているが、まじまじと顔を覗き込めば花宮と何ら変わらない年相応の寝顔だ。
そっと髪を指で弄れば、存外柔らかい感触が心地好く、自然と口元が綻んだ。
「…ふはっ…馬鹿じゃないの、俺」
いくら他人とは違う、ただならぬ関係であるとはいえ、こんな戯れごときで幸せを感じるとは。
「…俺も毒されてきたかな…」
古橋がいつだって優しくするものだから、つい調子に乗って甘え過ぎてしまう。
高校三年間限定の関係だと割り切っていた筈なのに、いつの間にか一秒でも長く続けば良いと願っている自分がいるのにも気付いていた。
気付けば残り時間よりも共に過ごした時間の方が多くなっている。
三年目の春を迎えた時、一体この関係はどうなってしまうんだろう。
「…更新しても、良いかもね」
こんなにも穏やかな時がいつまでも続くのなら、それも悪くないかもしれない。
―まぁ、口に出して言ってやるなんて恥ずかし過ぎるから絶対にしないけど。
無防備に投げ出された腕にそっと潜り込めば、心地好い温もりに再び瞼が重くなるのを感じて花宮はゆっくりと目を閉じた。

"Good morning"

(次に目が覚めたら、君におはようと言ってキスをしよう)