…どうしたら良いんだろ、スゲェ面倒。

"三角形の災難"

味などとうに無くなってしまったガムを意味もなく膨らましながら、俺は早くこの場から逃れたくて仕方がなかった。
「…花宮、もう分かってるんだろ?いい加減にしろ」
「何の話してんの?別に古橋に迷惑かけてるつもり、ないんだけどなぁ…?」
「…俺に超迷惑かかってんだけど」
「「原には聞いてない」」
…うっわ、ホントにダル過ぎて吐きそう。
不毛過ぎる言い合いはまだまだ終わりそうにない。
その中で俺は完全に蚊帳の外なんだけど、花宮が何故か俺の上に座ってて逃げられない…どーしてくれんの。
「迷惑とかそういう話じゃないだろ…俺が言いたいのはお前のそういう態度」
「そういう態度って何?古橋も偉そうな事言うようになったもんだ…キモ過ぎ」
無表情のフリしながら怒ってる古橋と、ニヤニヤ嫌味な顔で笑いながら怒ってる花宮のどっちが面倒か?そんなの決まってんじゃん、どっちもウザイ。
喧嘩なんかいくらやっても普段なら文句も言わねーけど、流石に今回は俺も何でか関係しちゃってる訳で。
静かに牙を剥き合う(こーいうのを冷戦って言うんだっけ?)二人の間に挟まれながら、俺も少しだけ解決策を考えてみる事にした。
「大体、お前がアイツの名前なんか出すからだ…俺がアイツの事が嫌いだって知ってるくせに…」
そう、今回の原因を作ったのは明らかに花宮だ。
古橋の前でアイツの名前を連呼しながら、俺の前髪で遊んでいたんだから。
古橋はチームメイトの中で誰よりも冷静で大人っぽいヤツだと思ってたんだけど、案外頑固で、その上独占欲が強かった。
今回も花宮が他人と仲良くやってるのが気に喰わなかったんだろう。俺も前髪を遊ばれるのは勘弁だだったし、止めてくれないかとコッソリ思ってたから怒ってくれるのはちょっと有り難かった。
「ふはっ、古橋、心狭すぎだろ…俺が何回お前がコクられるの見逃したと思ってんの?ホント、心狭い男は嫌われるよ?」
「…その心狭い古橋が好きなのは花み「原、ガムで口塞ぐよ?」
膝を思い切り抓られて、口なんか挟むんじゃなかったって少し後悔した。
とにかく、花宮の言い分としては「古橋は他のヤツと仲良くしてるくせに自分がそうすると怒るのが気に喰わなかった」からで…結局二人共同じ事言ってるだけじゃん。
花宮は花宮で古橋が誰かとつるんでるのが気に喰わなくて、古橋も同じくそう……独占欲ってマジキモ、目眩してくるんだけど。
しかもお互い無自覚ってのが更に質悪い。
「…いー加減さ、謝れば良いじゃん」
「謝る事なんか無い」
花宮もここまでくると意地でも妥協するつもりは無いらしい…面倒臭…。
何で俺がコイツらの痴話喧嘩の仲裁しなきゃなんないのか分かんないけど、このまま険悪な二人を放置しておくのも結局面倒な事になりそうだから、今回だけは特別。
「古橋もそんなに気に喰わない事ばっかなら花宮なんか切り捨てちゃえば?そーいう方が楽だし」
「…そういう問題じゃない」
あー、困ってる困ってる。古橋も頭がガチガチになると周りが見えなくなるんだからなぁ…ダルすぎ。
「花宮も縛られんのが嫌ならさっさと捨てちゃえば?何なら俺が拾ってやってもいいけど?俺、誰かさんみたいに縛らないもん」
「…は、何…言ってんの…ば、馬鹿じゃねぇの?」
どうだみろ、なんて今にも自分が正しそうな顔してる花宮にも少し鎌を掛ける、とか…あーあやってらんない。言っておくけど、俺にそーいう趣味は全然無いから。
「…結局さー、どっちも相手が好き過ぎなんだって。マジで重すぎて引くわ」
俺なら勘弁だねー、なんて黙りこくる二人に言ってみる…うわ、ちゃんと仲裁するとか、俺超良い子じゃん。
「…花宮」
「何、って、んっ…」
は、有り得ねぇよ…俺の前でキスとかする、普通?
「俺、お前の事になると余裕なくて…凄く嫉妬する」
「…俺だって、縛られんのが嫌な訳じゃねぇもん…古橋が、俺だけ見れば何も言わない」
「花宮…」
何これウザイ。
こんなバカップルの仲裁してた訳、俺?
「…良い雰囲気のトコ悪いんだけど、どいてくんない?」
早く帰ってチョコ食べたい。こんなベタベタに甘いのじゃなくて、ビターの。
あ、忘れてたよなんて平気で言いのける花宮に軽く恨みがましい視線を向けながら、俺はやっと解放される…あーつら。
「…原、」
「何?感謝でもしてくれんの?」
「お前には絶対やらないから」
「…は?」
古橋の馬鹿、宇宙人。
こんな事になるんなら、バカップルの相手なんかするんじゃなかった…。
この後1ヶ月は古橋からキツイ視線に晒されながら花宮に一言も口を聞けないような状況になるのはまた別の話。

(もう嫌だ、このバカップル…!!)

Fin.