横になって、ポタポタと落ちて管を通っていく自らの血をボウっと見つめながら、俺は嗤った。
「本当に、良いのか?」
俺の声に、古橋は敏感に反応したらしい。俺は口角を上げて勿論、と答える。
「少しの間、血が足りなくなるだけだろ?問題ねえよ」
「そうじゃなくて」
古橋の言葉が何て続くかなんて簡単に予想できた。そんな事をして、どうなるんだ、と。
「お前は、嬉しくねーの」
検査も一応して、俺達の血液は何の病気もなくてキレイそのものだったそうだ。だから、良いんだ、俺は。
それなのに、古橋はまだ逡巡している様に見える。
俺は少しだけ語気を荒くして、もう一度問いかける。
「なあ、嬉しくねーの」
「嬉しいよ」
即答する割に、その顔は何なんだよ。
段々と意識が遠のいていく。血液が、全部持っていかれたら、どうなるんだろう。俺は干からびてしまうのだろうか。
「その前に、俺の血が入るよ……花宮」
ああ、そうだった。血が抜かれて頭までおかしくなってしまったみたいだ。
そっと、古橋が俺の横に座る。
「……混ざり合ったら、花宮の事、もっと分かるかな」
「…………そう、かも、な」
嬉しいな、と呟く古橋の言葉が遠くに聞こえる。だいぶ、抜いたらしい。
交換こ、しよう。
そう言い出したのはどっちからだったっけ。もう思い出せない。
気怠い頭をゆっくりと古橋に向ける。
「もっと、近く、来て」
「うん」
ベッドをずらす音が聞こえる。古橋は本当に俺に甘い。それが、幸せだと言って何が悪い?
古橋も、ゆっくりとベッドに横たわる。
「あはは、本当に、やるんだ」
「今更何言ってるんだよ、花宮」
交換こ。
君と俺の全部を交換こ。
嗚呼、なんて幸せなんだろう。
「手」
「……はい」
握り返される掌に、ジンワリと古橋の僅かな温かさが伝わってくる。
これも、もうすぐ俺の中に入ってくるのだと思うと、ゾクゾクした。
「俺達、幸せ、だよなあ」
「そうだな」
全部、全部、全部、二人で一つにするんだ。
ふふ、と嗤うと古橋も微笑みを返してくれる。
「俺達、ずっと、一緒、だよな」
「ああ、ずっと一緒だ」
「全部、二人のものにしような」
「ああ」
俺のモノも、お前のモノも、全部一緒にしよう。
トクン、トクン、と鼓動がゆっくりと動く。
掌からも、同じ、音。
「ずーっと、一緒」
もっと、混ざり合いたいな、俺。
そんな事を言ったら、古橋はやっぱり少し困った顔をしながら良いよって言ってくれるんだ。
俺とお前。
俺=お前。

Fin.