俺は花宮が嫌いだ。
俺をモノ扱いして、自己を正当化する為に俺を使う。彼奴には、棄てきれないプライドがいつだってまとわりついていて、それを滅茶苦茶にしたかった。俺は人間として普通に生きる事はとうに諦めていたけれど、自分自身を好き勝手に扱われるのは嫌だった。俺は俺として生きる。
だから、花宮の腐って捻じ曲がったプライドを壊してやろうと思って、部室で身体を押さえ付けて犯してやった。

いつか此奴がオレに向かって刃を突き付けてくるだろうと思っていた。だから、顔が強かにロッカー に打ち付けられても、何も思わなかった。寧ろ、それだけか、と焚き付けたくなった。だから、オレも無理矢理咥内を蹂躙してやった。目を見開いて此方を見つめる瞳がとても滑稽で、オレは舐め取った唾ごと吐き掛けてやった。
ざまあみろ、と言ってやる前に、逆に古橋に咥内を蹂躙され、最後に思いきり噛み付かれ、舌から血がポタリ、と落ちた。
「お前さあ、オレの事嫌いなんじゃね―の?嫌いなヤツにキスして楽しい?」
「……最悪だ。でも、お前が嫌な顔をするから」
だから、お前を犯すんだ。
古橋の言葉は確かに理にかなっている。嫌いだから、嫌われるような事をする。オレはもちろん、嫌悪感で一杯だ。古橋が憎くて憎くて、気持ち悪い。

「……っ……」
声を押し殺している辺りが、癪に障る。これも演技なんだろうか。そう思ったら、反吐が出た。俺はシャツのボタンも気にせずに、ガッと花宮のシャツを破いた。どうやって帰るんだよ、なんて花宮がぼやくのを無視して、俺は突起を思いきり引っ掻く。痛みからか、眉間に皺が寄っている。もっと、苦しめばいい。そうやって俺を憎めばいい。
俺は性急にスラックスのジッパーに手をかける。
「痛いくせに、感じてるのか?変態なんだな、花宮は」
「うるせえ……っ、っうぐ……っ」
熱を持ち始めていた花宮のソレを扱く。ゆるゆると立ち上がるそれに、嫌いな人間に触られても感じてしまうなんて、哀れな身体機能だな、と他人事のように思う。
俺は先走りが出始めたそれを一旦放置して、花宮のスラックスを全て脱がせる作業に入る。止めろ、と抵抗する声が聞こえるが、無視だ。俺はお前のプライドをぐちゃぐちゃに壊してやりたいんだから。

スラックスに手をかけた古橋の手を止めようと手を動かそうとしたら、両腕をネクタイで縛られた。ふざけんなよ、と罵倒しても、古橋の顔は能面のように動かない。外気に性器が晒されて、背筋をブルリと震わせる。
「っ、オイ……!止めろって言ってんのが聞こえねえのかよ!!」
唯一自由だった足で思いきり古橋の腹部を蹴った。古橋は受け身を取る事も出来ずに反対側のロッカーにぶつかる。
「ぐっ……!」
チラリと憎しみに満ちた瞳がこちらを見ている。愉快だ。もっと苦痛と憎しみに満ちた目で見てみろ、と思う。ずっとオレの言う事に抵抗を見せずにそのまま動いていた古橋より、こうやってオレを壊そうとする意志が見えている方が面白い。滑稽だから。
古橋はさっきの衝撃で口の端を切ったらしく、唇に血を滴らせている。オレはそれをそっと拭うように舐めてやる。どうだ、オレはまだ余裕なんだよ。
古橋はオレの両脚をつかむと、足癖の悪い奴だな、と言って両脚の関節を抜かれた。足に力が入らない。ああ、そういえばオレ達はそういうのに慣れるように訓練していたんだっけ。自分が考えた企みで自分が墓穴を掘る事になろうとは。
「ふはっ」
ああ、笑える。古橋はこんなにも必死にオレを貶めたいのか。ああ、愉快で堪らない。
力無く崩れ落ちるオレの両脚を支えるように古橋はつかむと、自分のスラックスを寛げた。
「お前を犯す」
「勝手にしろよ」
動けないしなあ、と笑ってやったら、頬を叩かれた。
萎えきっているかと思いきや、古橋のそれは熱を持っていて、お前もオレと同じじゃないか、と自嘲的な笑みを浮かべる。
痛み=快楽。
好きでもないヤツに、なんて関係ないのかもしれない。これはただの身体に攻撃を加えられた為に生理的に子孫を残そうと身体が反応しただけだ。
古橋が、オレの穴に入れようとして、先走りのせいか、ズルリと上手く入らない。馬鹿だなあ、お前は。またそうやって笑ってやったら首を絞められた。
「胸糞が悪くなるんだよ、お前のその笑い方」
「っ……、く……っ」
声にならない声で、バアカ、と言ってやれば、古橋の表情が一気に憎悪に染められる。そう、そうだよ。もっと、オレを憎め。
ぐ、とオレの穴にまた古橋のそれが宛がわれる。今度こそは、とばかりに解れてもいない穴に思いきり突っ込まれ、オレはヒ、と息を呑んだ。
「ぅぐあ……っ」
「……っ」
ミチリ、と無理矢理に広げられて、痛みに顔を顰める。本来の用途をしていないんだから、その通りだ。内臓を突き上げられるような感覚に、オレは吐き出した。
「っうぐ……っ、ぅげっ……っ、はっ……」
吐瀉物がタイルを汚す。ああ、最悪だ。ツン、とした臭いに、頭がぐちゃぐちゃになる。ああ、ムカつくなあ、コイツ。

花宮の中に入った、と感じただけで吐き気がした。けれど、俺はそれをそっと飲み込み、グイ、と更に突き上げた。すると、花宮が耐え切れずに吐いた。
どうだ、俺はお前の思い通りのモノなんかじゃない。苦しみ、喘げ。
そう思うと同時に、締め付けてくる花宮の中で俺のものが膨れ上がる。こんな奴に感じているのか、俺は?
そんな疑問は、さっさと頭から放り出して、俺はグイグイと突き上げる。その度に花宮が痛みに堪えるような、喘ぎ声をあげる。
射精感を覚えて、俺は更に上下に擦りあげる。花宮の中は無理矢理入れたせいで血液が溢れていた。それと俺の先走りで、だいぶスムーズに動かせるようになった。
「っ、う、う、はっ……」
花宮もどうやら限界を感じているらしい。俺は、性急に身体を動かして、花宮の中に射精した。気持ちは、最悪に悪かった。
花宮の精液が、タイルにぶち撒かれる。花宮も感じていたのかと思うと、顔を顰めたくなる。それなのに、心のどこかで安堵に似た何かを感じている自分がいる事が疑問だった。
俺は、花宮が嫌いで、憎くて、貶めたくて―それなのに、ズキンと痛むこの感情は何なのだろうか。俺は呆然と立ち尽くすしかなかった。

ドプ、と俺の中に精液が流し込まれる。最悪だ。俺はまた吐き気を感じて、胃液を吐き出した。
古橋は呆然とした様子で、オレを見ている。なあ、今、何をお前は考えてる?
俺は胃液と吐瀉物で汚れた口元を拭って、立ち上がろうとして、両脚に力が入らない事を思い出す。ああ、そうだった、コイツに抜かれたんだった。
「……足、戻せよ」
古橋はボウッとした表情で関節を巧みに入れていく。アレか、射精後の感覚で思考が鈍っているのか。
「古橋」
「…………何だ」
ああ、こんなにしてくれたヤツなのに、何故か愛しさだけが込み上げてくる。オレもついに頭が壊れたか。痛みと吐き気しか催さなかったのに、オレはコイツに愛情を感じている。
「好きだよ、古橋」
これがコイツの枷になれば良い。オレという存在が、コイツに刻み込まれて痛みにもがき苦しめばいい。
好きだよ。
オレはもう一度口の中だけでそれを呟いて、古橋の無防備になった唇を舐めた。

Fin.