ヘラヘラ笑いながらアイツはいつだって俺を狂わすんだ。

"写真と春と彼の笑顔" 

―こんな時期もあったっけ。
火神から差し出された一年前の写真を改めて見返しながら、日向は思わず苦笑を浮かべた。
高校からは違う自分になるのだと奮起して、両親の反対も気にもせず黒かった髪を金に染めたあの日が随分昔に感じられる。
それもこれもアイツ―木吉鉄平―に振り回されたせいだ。
一つも自分が思い描いていた様な高校生活にはならず、慌ただしく過ぎていく日々。
それでも、そんな日々が辛くも楽しいと感じられるのは木吉がいてこそなのだと、日向はもう気付いていた。
―じゃあ創ろうぜ、一緒に。
真っ直ぐに言われたあの一言が、あの真摯な瞳が、日向の「今」を形作っている。
がむしゃらに突き進んでいたあの春はもう遠い過去でしかないのだ。
変人だけど、恩人で。
嫌いだけど、それ以上に大切な、そんな彼を失いたくはない。
―日向。
屈託なく笑う木吉が眩しくて。それでもいつの間にか目で追うようになっていた自分。
―やっぱり、黒い方が似合うな。
髪をクシャクシャになるまで撫でられたのが恥ずかしかったくせに、どこか嬉しくて。
―やるからにはテッペン、だろ?
あの頃から膝の状態は悪化し始めていたというのに、木吉は笑う事を忘れなくて。
―今年が、最後かもしれないんだ。
だから、今にも泣き出してしまいそうなあんな顔なんて、見たくなかった。
「…鉄平」
思わず口から出た言葉は、憎くて愛しい、アイツの名前。
また、あの時の様に笑って欲しい。
また、あの真剣な瞳で見つめて欲しい。
また、あの大きな掌で包み込んで欲しい。
「…だからこそ、俺が今止めなきゃいけねぇんだ」
「無冠の五将」として陽の目を浴びる事の無かった木吉を頂上に連れていく―その為に日向はこのWCに賭けていた。
退院直前にさりげなく告げられたタイムリミットと前回の試合後のあの状態を考えれば、残された時間は思った以上に少ない。
ならば、こんな予選でグズグズしている暇は無いのだ。
木吉が自分に明るい世界を見せてくれたあの日の様に、今度は自分が引っ張っていく番だ。
「俺達だけで、戦ってみせる」

あの春の穏やかな日々をまた迎えるために。
日向は手に持っていた写真を握り込んだ。

Fin.