「あ、」
カレンダーを見て、俺は思わず口を開ける。
今日は休みで、のんびりとジオラマでも作ろうかと思っていた所での、この発見だった。去年はそれどころじゃなかったから、つい忘れていた。
「どうっすかなー……」
メールを送るだけでも良いとは思ったが、それだけでは何となく味気ない様な気がして、携帯に表示された名前をジッと見つめる。
―電話でも、かけてみるか。
ピ、とボタンを押して通話画面が表示される。
出てきたら、何て最初に言おう。一応、おめでとう、と言うべきだろうか。
そこで俺はプレゼントなんて用意していなかった事に気付き、何て言い訳をすれば良いのだろうか。
 俺達は一応恋人同士の関係であるし、こういうものは恋人のイベントの最たるものの一つに違いない。普通の恋人とは少し違うからスルーしても良いが(俺達の関係なんて、所詮親友の延長線上にあるものだから)、アイツが生まれてきた日を祝うべきだとは思う。
プレゼントなんて、滅多にあげたことも、貰ったこともないから、どんなのが良いのかも分からない。とりあえず、声だけでも聞かせてやろう。
『もしもし?』
そんな事をぼんやり考えていると、鉄平の声が耳に響く。
「あー、もしもし?俺、日向だけど」
『分かるって、表示されんだから』
そりゃそうだ、と思いながらどう言葉を続けようか、俺は少しだけ悩んで、ふとこの前読んだ本を思い出していた。
「えーと、今日誕生日だったんだって?とりあえず、おめでとさん」
『お、サンキュー!日向から言われたの、初めてかも……!何か嬉しいな』
ニコニコと笑っているであろう画面の向こうの相手に、俺もつられて笑う。
鉄平はいつだって俺達を幸せにする力があるのだと勝手に思っている。
「……まあ、その話はとりあえず置いておいて、お前を連れて行きたい所があんだけど……空いてるか?」
『ん?空いてるよ』
高校生にもなって家族で誕生日パーティとかもないしな、と鉄平が笑う。それもそうだな、と俺は返して、待ち合わせ場所と時間を伝える。
「……大丈夫か?」
『おー、オッケー!」
「じゃ、そこで」
『ん。じゃあな』
 適当に通話を切り上げて、俺は携帯を閉じる。それからクローゼットを漁って、出かける準備を始める。少し遠い場所だが、電車で二駅程度の所だから、そんなにそこで時間がかかる事もないだろう。携帯と財布、それから簡単に物を入れたカバンを手に取って、ちょっと出かけてくる、と母親に声を掛けてドアを開けた。
気に入るかは分からないけど。まあ、思い出の一つにでもなればいいかな、と思いながら俺は待ち合わせ場所へと向かった。

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