どうして、気付かなかったのだろう―あの時君は泣いていたというのに。

"Miss U"

グイ、と力をなくした頭部を無理矢理上に向かせて口付ける。
とうの昔に彼は抵抗する事を止め、ただ僕にされるがままだ。
「青峰くん」
彼の名を何度呼んでも、彼は目を合わせる事もなく、ゆっくりと息をするだけで。
「どうして君は…僕を見てくれないんですか」
―どうして。
本当は分かっていた。
僕がもう彼にとって必要の無い存在である事も、僕もまた彼を必要としていないという事も。
けれど、一度依存してしまった彼という存在を簡単には手放す事は出来なかったのだ。

『…っあ、あ、やっ…』
あの日の彼の瞳を思い出す。
ボロボロと彼は涙を溢しながら、やめてくれ、と懇願していた。
何故そんな事を言うのだと僕は怒っていた気がする。
こんなにも必要としているというのに、何故だと。
彼はなおも嗚咽を殺しながら助けを請う。
『―ッ、ぃ、ま…っ、よ、し…さんっ…』
―そう、僕ではない名を呼んで。
あの時からもう、どれくらいの月日が流れたのだろう。
彼は助けを請う事も誰かの名を呼ぶ事もなく僕の傍らに居てくれる―生きる事以外の一切失って。
「…ねぇ、青峰くん」
虚空を見つめたままの瞳が此方を向く事だけを望んで、僕はただひたすら彼の名を呼ぶ。
僕達はいつから道を違っていたんだろう。
僕達はもうあの頃には戻れないんだろうか。
「青峰くん…僕を、見て下さい」
そして僕は彼の名を呼び続ける―彼を失ったまま。

Fin.