再眠

「おー笑ってら。最初はあんなにおっかない顔してたから、どうなるかと思ったぜ」
「僕も少し、安心しました」
再びスリープモードに入ってしまった『彼』をまじまじと見つめ、虎徹はホッとしたように息を吐いた。
このアンドロイドが遂に完成したと聞いた虎徹は、兄の手伝いも放り出してオリエンタルタウンから急遽やって来たのだ。
自分そっくりのアンドロイド、というからどんなものかと思えば、実際に話してみるとそこまで似ていなくて、安心したような拍子抜けしたような気分だ。
―まあ、双子だって全部が全部同じじゃないもんな。
虎徹は変な理屈をつけて頷く。
「じゃ、俺は帰るとするか!楓達に何も言わずに来ちまったしな」
「もう帰られるんですか?ゆっくりしていけば良いのに」
引き留めるような言葉を言いつつも、バーナビーの手にはすでにダブルチェイサーの鍵が握られている。
「悪いなあ、バニー。また今度、暇見つけて来るからさ」
「また何かあったら連絡しますよ」
ニコリ、と柔らかく笑うバーナビーの頭をくしゃりと撫で、ハンチングを被り直していると、か細い声が虎徹を呼んだ。
「(タイガー、帰る前に一つだけ頼み事があるんだ)
「何スか、斎藤さん」
「(このH-01に名前を付けてもらいたいんだ)」
真剣な眼差しに、虎徹は振り返ってもう一度自分に瓜二つのアンドロイドを見やる。
静かに眠るその姿に、虎徹は大きく頷いて笑った。
―これが、お前の第一歩だ。
「そうだなあ…あ、コイツがヒーロースーツ着てた時、黒い奴だったよな?ってことはブラックタイガーだから……よし、黒虎ってのはどうだ!!」
「安直過ぎませんか…まあ、虎って入っているし、虎徹さんらしくて良いんじゃないですか」
「んじゃ、決まりだな!!」
「(彼も気に入ると良いね)」
ニコニコとアンドロイド―改め黒虎を見る斎藤につられて虎徹も笑みを零した。
―また目が覚めたら、沢山話そうな…黒虎。
それから、と虎徹はそっとバーナビーを見やって、拳を握り込んだ。
―コイツの傍に、ずっと居てやってくれよな。
「それでは行きましょう、虎徹さん。送りますよ」
「おー助かる!じゃあ、また!!」
先を歩くバーナビーの後を追いながら、虎徹は思う。
隣に居てやれない今だからこそ、必要なのだと。
―俺は少しだけ、離れてしまうけど。必ずお前達を迎えに来るから。
虎徹は微笑みを浮かべて眠る黒虎に想いを託して、研究所を後にした。