葛藤、そして次のステージへ

「……にしても凄かったなあ」
「黒虎の、事ですか?」
バーナビーの問いかけに虎徹は強く頷いた。
「だってさ、あんなに変わったんだぞ?子供の成長以上だって」
たどたどしい言葉ながらも伝えてくれた黒虎の『想い』。
機械的な瞳の奥に確かに生まれた炎。
それらを育て上げたのは他でもない、バーナビーなんだろう。
「バニーってさ、良いお父さんになれそうだよな」
「は?何ですかいきなり」
怪訝そうな視線を向けるバーナビーを宥めるように笑いながら、虎徹はボンヤリと外を見つめた。
バーナビーに伝えようか、まだ迷っていた。
もしかしたらもう、彼は彼なりの道を見つけているかもしれない。
そもそも、自分が確実に足を引っ張る事が明確であるのに伝えるというのも間違っている気がした。
「虎徹さん」
酷く真面目なバーナビーの声に、ギクリと肩が強張る。
「大事な話が……聞いて欲しい事が、あるんです」
「あー……うん、何?」
バクバクと心臓が騒ぎ始めるのを必死に抑えつけて笑った。
―俺も、話したい事があるんだけど。
「僕―」
「お父さん!!」
タタッと軽やかな足音と共に扉が開かれる。バーナビーはもう既に口を閉じて微笑んでいる。
タイミングを逃してしまうのが俺達の中ではお決まりらしい―虎徹は髭をサッと撫でて扉の方を向いた。
「どうしたー、楓。黒虎がどうかしたか?」
帰宅するや否や、憧れのバーナビーよりも先に黒虎に目を向けた楓は黒虎を引き連れて安寿の所へ行ってしまっていた。
話をするには好都合ではあったが、同じ容姿であるのに、この扱いの差である。虎徹は少々不満気に楓の次の言葉を待った。
「それがね、黒虎さんすごくお料理が上手なの!!おばあちゃんのお手伝いしてるんだけど、すごいあっという間で……お父さんも見習わなきゃね!」
顔はそっくりなんだから、と皮肉たっぷりに言われて、虎徹はますますむくれる事になる。
「黒虎は毎日僕の食事を作っていますから慣れているんですよ……それに、ほら、虎徹さんのチャーハンだって美味しいじゃないですか」
「チャーハンしかできないんですよ、お父さんは!今度黒虎さんに何か教えてもらおうかなあ」
「ちょ、楓ぇー!!」
愛娘に散々な事を言われて凹む虎徹に、バーナビーが何か声をかけようと隣に寄った所で渦中の人物が入口から顔を出した。
「虎徹、バーナビー、夕食の時間だそうだ。それから楓、安寿さんが味見をしてもらいたいと言っている」
「はーい!じゃ、早く来てよね、お父さん!!」
鼻歌交じりに駆けていった楓の背中を見つめながら虎徹はがっくりと肩を落とす。
「……どうかしたのか、虎徹?」
「やっぱり俺ってダメ親父なのかー……くそー、楓―……」
「??」
虎徹の落ち込みようが理解できず、首を傾げる黒虎へバーナビーは苦笑交じりに微笑んだ。
「大丈夫ですよ、黒虎。虎徹さんは自分の不甲斐無さに落ち込んでいるだけですから……いつものことですよ」
「バニーもバニーでひどくない?!」
和やかな空気が辺りを包み、自然と笑みが浮かぶ。
「さ、早く行かないと。安寿さん達を待たせてはいけませんから」
ス、と立ち上がったバーナビーに先程の迷いある表情は見られない。
―ま、また今度でも平気だろ。
時間はまだ沢山あるのだと虎徹はゆっくりと立ち上がって、バーナビーの後を追う。
まさか後に二人と一体の思惑が思わぬ所で重なる事になるとはまだ誰も知らない―。
Go Next Day…