ここを、狙わずしてどうする、と思ったら身体が勝手に動いてた。
「ねえ、センパイ…今日、家空いてるんスけど」
“カンゼンハンザイ”
センパイって、自分の懐に入れた人に対しての警戒が薄いと思う。先にリビングへ向かうセンパイの背中を見ながら、オレは噛んでいたガムをゴミ箱に吐き捨てた。
やっぱり、イイ匂いとかする方がテンションって上がるもんでしょ?
「黄瀬ー、ちょっと課題あるから、先やる事あんなら何とかしておけよ」
「はーい」
真面目なセンパイ。でもその邪魔をするのが、悪いコーハイ。
自分の部屋へ向かいながら、オレは笑いが堪え切れなくて口を歪に動かす。
何で、気付かないかなあ。オレなら、最初の言葉で気付いちゃうのに。
でも、そんなセンパイが好きだから、オレはそれを咎めたりはしないんだ。ただ、オレのサインに早く気付いてくれれば後が楽ってだけ。
鞄をベッドに放り投げて、オレはクローゼットに向かう。制服を着てスるのも結構盛り上がるけど、やっぱり汚れると面倒臭いし。オレは適当に服を見繕ってYシャツだけを着たまま、シャワーへ向かう。
リビングから風呂までは遠いし、音もあんまり聞こえないと思う。オレはこれから起こるであろう事を考えて、興奮して、喘いだ。
センパイが辛くなんないように、オレの準備は全部済ませて。
部屋着の中に忍ばせた袋は、いつ開け放ってやろうか。
考えれば考える程に、興奮して、センパイの表情で頭が一杯になる。いつだって、一生懸命に頑張ってくれて、優しい手で撫でて、重なるか重ならないかのキスをして。あの表情も堪らなく好きだ。でも、オレにはちょっと刺激が足りないのだ。
センパイも、貧乏くじ引いちゃってるよなあ。
オレみたいなヤツに好かれて、好きになっちゃって。でも、センパイなら溺れないでオレに付いて来てくれるって信じてるよ?
「……っはあ……」
室内が、蒸気で溢れてオレの頬も上気する。
早く、早く。でもたっぷり楽しみたいからじっくりと。
考えるだけで頭が真っ白になりそうになる。こんなオレを見たら、どんな表情をするんだろう、って思ったら弾け飛んだ。
「……遅かったな、黄瀬?」
「あーいや、事務所から電話とか来ちゃって」
ソファに座りながら、テキストを捲るセンパイ。何で、どうして、そんな無防備なの?それも計算の内?
オレはそっとソファに腰かけて、センパイの横顔を見やる。
ねえ、良いよね?
両親には、ちゃんと自炊出来るからって言って、三泊四日の旅行に行ってもらった。家の鍵も、勿論閉めてある。
空調だって、少し低めに設定したんだ。これで、気付いてくれないなんて。でも、そんな鈍感なセンパイだからオレが溺れてしまう。
あの瞳、唇、吸い付く肌、感じる熱の高さ。どれもこれもオレを魅了して、どんどん堕ちていってしまうんだ。
「ねえ、センパイ。シません?」
完璧。その瞳はオレを捉えて離せなくなる。
「黄、瀬……?」
「今日は、オレが全部気持ち良くするから……だから、」
ドサリとソファに沈み込んだセンパイの瞳には驚愕の色が見える。やっぱり、気付いてなかったんだ。
「気持ちイイコト、しないッスか?」
コンドームのフィルムを口に加えて艶やかに笑ってやれば、瞳の奥に燃え上がる炎がチラリ。
「おま……っ、最初からそういうつもりで……!」
「そんなつもりじゃなかったら、どんなつもりが良かったんスか?」
掌で包み込むように触れると、ドクン、と高鳴りが聞こえる。オレは構わずベルトを外して、ジッパーを下す。
嗚呼、あの感覚が身体のナカから、響いてくる。
「Yシャツ一枚ってのも良いと思ったんスけど、それはまた今度って事で」
ピッと口に加えていたフィルムを破ると同時に、オレは一気にスラックスを下した。
「ちゃんと、見ててくんなきゃ、嫌ッスよ?」
狼狽える声の割に、落ち着いた瞳。そうこなくちゃ、オレの我慢が効かなくなってしまう。
高まる熱の中心を愛でる様に指先で丁寧に触れては離して。
ねえ、もっとオレを見て?
唇を中心に持っていけば、センパイの静止の声が聞こえるが、それも無視してオレは夢中になってソレを弄んだ。
「んっ、ふっ、んあ……っ」
舌で転がして、突いて、舐めて、奥まで入れて。
「黄瀬っ……!っ、おい!」
「んちゅっ、はあ……っ、何、スか」
グイ、と頭を上に向けられて、視線が交わる。それと同時に、右手も持ち上げられる。
「自分だけ、イイ気持ちになってんなよ……」
俺も交ぜろ。
その言葉に、オレはもう蕩けそうな程の笑みを返す。嗚呼、堪らなくこの人が好きだ。もう、全部溶かしてくれれば良いのに。
「じゃあ、コレ無しにします?」
「……お前が、平気なら」
えらく今日は機嫌が良いのかな?なんて思う程、従順にオレの願いを聞いてくれる。どうしたの、なんて野暮なコトは聞きたくない。
オレは先程丁寧に解した蕾をそっと指で開いて、センパイの上に跨る。
屹立したモノを咥えるのは、少しだけ手間取ったけれど、ナカが熱くて、オレはもうどうにでもなりそうだった。
「なあ、黄瀬」
「んっ、は、何?」
静かな声で、オレを呼ぶセンパイ。何、何があったの?
「……お前だけはナシって言ったろ?だから、ココは今日はダメ」
ポイ、と放り投げたコンドームをセンパイは器用に片手で取って、それをオレのモノに紐の様に結び付ける。
「ふぇ?ぅあ、そん、なあ……っ、あっ」
グ、と腰を押さえ付けられ、奥深くまで熱が届く。
「…………っ、お前は、最初っから甘いんだよ、バアカ」
全部、分かってたんだ。
全部、知っててそんな顔してたんだ。
「セ、ンパっ……イ、狡っ……い……っ」
「何とでも言え……っ、俺のサインに気付かなかったお前が悪い……っ」
「あっ、あっ、やっ、あうぅ、んっ……や、だあ……っ」
熱が高まるのに、放つ事が出来ずに、オレはただ腰を捩る。
「センっ、パイぃ……っ、外、して……!」
「やーだねっ……くっ……お前、ばっかにイイ思い、させねえよ……っ」
「ひゃっ、うあっ……も、むり、むりっ……スよぅ……っ!」
ぽろぽろと、涙が落ちる。悲しい訳じゃない、気持ちがヨすぎて、堪らないんだ。
「はやっ……くぅ……っ、ね、セン、パイ……!」
「しょ、がねーな!!……くっう、トぶなよ……っ」
パチン、と弾ける音がした。
「ひゃあっ、あっ、あっ、ん……っ、はっ、やあっ、も、だめっ、だめ……っ!」
「っく……俺だけ、見てろ……っ」
律動に合わせて声が漏れる。もう、センパイしか見えないのに、そんな事言わなくたって良いのに。
「見てっ……からぁ……っ、センパイしかっ、もう……っ、いないよぅ……っ」
「合格……っ、ご褒美、だ……っ」
「ぴゃ、や、うあ、だめ、だめっ……ああっ……!!」
オレが仕掛けたハズなのに、いつの間にか主導権はセンパイにあって。
オレはもう訳が分からないくらい、声にならない声を出して。
「好きっ……センパイっ、だけがっ、好きぃ……っ」
愛おしくて、愛おしくて。
オレは、ただ蠢く身体のナカの熱に喘ぐだけだった。それでも、ナカに溢れる蜜が、好きで、愛おしくて、溢れる程出して欲しくて。
センパイしか、欲しくない。もう、センパイしか見えない。
好き、好き、好きって何度も愛を叫びあって。
明日までずっと、これが続いても良いやってくらいに、オレはセンパイが大好きで。もう、離したくない。
「ずぅっと……ぉ、一緒が、良い……っ」
「一緒だ、ずっと、一緒だ……っ」
オレが考えた完璧なトリックは見破られていて、オレはセンパイの掌の中でただ弄ばれていただけで。
完全犯罪なんて、オレにはやっぱりムリだった。
だって、もうオレが既に囚われているんだから。
嗚呼、もうセンパイに、Hands Up!
Fin.