"End of the year"

「蕎麦、出来たぞ」
笠松がミトンを付けた両手に湯気の立ち込める鍋を持ってこちらを向いた。
今年は実家で迎えるものだと思っていた大晦日も、結局こうやって寮で笠松達チームメイトと過ごしている。
「今年ももう終わっちゃうんスねぇ…」
早かったなぁ、なんてしみじみとした表情を浮かべている黄瀬にらしくないなと俺は笑ってみたが、確かにそんな気もしなくもない。
今年は本当に色々な事があった。
バスケ部に黄瀬が入ってきた事でトラブルも増えたけど、ずば抜けた能力をもった黄瀬に負けじとひたすら練習した日々。
IHだって、負けはしたけどあんな名勝負は二度と無いかもしれない。
バスケ以外の生活も高校最後だと思ったら何だって楽しく感じられた。
「卒業、したくなくなるな」
ポツリと呟いた言葉が思いの外的を得ていて、少しだけポッカリ穴が空くようだ。
「何、しみったれた事言ってんだよ…バカ」
盆に温かそうな器を乗せて戻ってきた笠松も口ではそう言いながらもどこか寂しげに見える。
「来年も、この3人でのんびり蕎麦食べたいなぁ…」
早川さんとじゃ面白くないッスよ、なんて軽口を叩く黄瀬が少しだけ顔を歪めている。
来年の今頃はもう、気軽に高校生なんてやってない。
俺達は皆、別の道を歩き出すのか―。
「…年末だからって、しんみりする必要はないか!!」
自分でも驚く位に明るい声が出て、ちょっと笑えた。
―そうだよな、永遠の別れでもないんだし。
また、会いたくなったら海常(ここ)に戻ってくれば良い。
「そうだな、こんなんじゃ年明けても楽しくねぇよ」
「蕎麦、伸びちゃうッス!」
フワ、と鰹節の匂いが鼻を擽り、誰からともなく笑った。
道は違えど心は一つ。
来年も3人で蕎麦を啜って、眠い目を擦りながら初日の出でも見に行こう―なんて考えていたのが自分だけじゃなかった事に気付くのは来年の話。

Fin.