『目標を捕捉しました』
『こちらも確認した。上に5人、下に20人弱って所だな』
「そのままお前らは様子を見て随時報告する様に」
『了解』
『了解しました』
黒子と伊月の応答に俺は答え、椅子に座る。国内で不穏な動きがある、という情報を見つけた俺達はそれを駆逐する為に出向した。後援からの連絡は今の所無いのを考えると、相手に俺達の動きはバレていないようだ。
「火神」
「うっす」
装備品の点検をしていた火神をこちらに呼ぶ。ギラついた瞳が、戦いたいという意思を一如に表している。そんなに焦らなくても、お前には十分働いてもらうつもりだよ、と心中で思う。
「これから、Bルートでお前の小隊を突入させる。……出来るな?」
「勿論ッスよ、俺が全部やってやる!……ですよ」
敬語がなってねえなあ、などと思いながら、突入の時刻と、装備品の最終チェックをするように告げ、俺は火神を下げた。

―本当に、これで良いのか……?
『今回の任務で、火神と黒子の能力を判断するわ』
リコの言葉が反芻される。あれは出向三日前の事だった。まさか准将二人の前に俺一人で立つ事になるとは思わなかった。
「アイツらの、能力を判断……ですか」
「ああ、アイツらには結構期待してるんだ」
鉄平がフワリと笑う。コイツの笑顔はいつも平和ボケしていて、これから国内の不穏分子を潰しに行くなんて、到底考えられない。
「とにかく、あの子達にはそれなりの働きを期待しているのよ」
コツコツと机を叩きながら、リコがニヤリと不敵な笑みを浮かべる。何だか、嫌な予感しかしない。
同期入隊して、俺だけは准将に昇格する事を拒んだ。現場にいたい、という想いが一番にあったから。それに、俺は机の上でアレコレやるよりも戦場で駆け回る方が性に合っていたというのもあった。
俺の辞退に、二人は何も言わずに認めてくれた。リコは「これからはビシビシやるわよ」などと不穏な事を言ってはいたが。
「火神君には、デコイになってもらうの」
「新人にそれは結構厳しくねえか」
つい、二人の前だと口調が砕けてしまう。キッとリコがこちらを見たので、勘弁してくれと両手を上げる。
「彼にはそれ程の能力があるのよ」
「……確かにアイツは人並みじゃねえけどさ、いきなりデコイっつーのは厳しくねえか」
多数の敵を引き付けて自らが犠牲になる事を厭わない、という事だ。アイツにそこまでの力があるとは思えなかった。
「被害を一番少なくする為には、これが一番だと思うぞ、俺は」
鉄平までリコの作戦に同調するのは、珍しい事だった。
「何か、隠してるんじゃねえだろうな……?」
「ハハ、まさか。現場を仕切ってもらう日向に隠し事はしたらヤバいだろ」
「そうよ。日向君は次の作戦を無事に完遂してもらわなきゃいけないんだから」
二人の笑顔が、怖い。俺は何も言わずにそのまま部屋を出たのであった。
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