えすおーえす、君と目が合いました。
エスオーエス、心拍数急上昇。
SOS、この気持ち、届けて下さい。

"緊急信号"

真面目な横顔が、好きだ。
たまに眠たそうに欠伸を噛み殺す表情も、良い。
―ホント、英語苦手だよなぁ…。
眉を寄せながら教科書とにらめっこをするその表情に思わず笑みが零れた。
つまらない授業を聞くふりをしながら、俺はいつも「観察」をしている。
―あ、分かったんだ。
俺が「観察」を始めたのは、付き合い始めてから半年が過ぎようとしていた時だ。
寡黙であまり自分の事を語ろうとしない大坪の事をもっと知りたくて、こっそり授業中に様子を見てみようと思ったのがきっかけだった。
もう3年も共に過ごしているのに、意外に知らない事も多くて正直驚いたが、それ以上に大坪を知る事が出来るのが嬉しかった。
それからというもの俺は授業中に必ず「観察タイム」というのを作っている。
―今日も駄目か。
ただ、一つだけ不満があった。
それは大坪はこちらを全くと言って良い程、こちらを見ないのだ。
大坪は生真面目な人間だから、きっと授業に集中しているのだろうとは分かっていたが、俺というものはとことんワガママなヤツで、少しでも良いからこちらを向いてくれないかと願っていた。
俺の気持ちの半分でも良いから気付いてくれないかな―?
晴れて両想いだという事が判明して付き合い始めた俺達だったが、照れ屋な大坪はあまり想いを直接伝えるような事はないし、何より鈍感だった。
俺が10回愛を伝えて5回返事が返ってくれば多い方で、大抵は「どうした?」と不思議な顔で見られるのがオチである。
結局の所片想いしていた頃とさほど変わっていない気もしなくはなかったが、あの日確かに好きだと小さい声ながらも確かに言ってくれたのを俺は知っていたからあまり気にしていない。
大坪が小さくても確かな愛を返してくれるなら、俺は大きくて確かな愛をあげれば良いんだ―。
そんな訳で、俺は授業中だろうと構わずに大坪へ愛を伝え続けている。
それでも、こんな俺も不安になる時はある訳で。
俺の愛は重いんじゃないか、とか本当は同情で一緒にいてくれるのではないか、とか…とにかく悩みは尽きないのである。
女々しいとは思うのだけれど、元々がネガティブな俺は余計な心配ばかりしているのだ。
―1回で良いから、気付いてくれないかな…。
何回目かの願いを心の中で念じながらも、今日は無理に違いないと諦める俺がいて。
いい加減に勉強に集中するべきだと大坪から視線を外そうとした瞬間、ふと視線が交わる。
「…っ〜?!」
俺は思わず叫び出したくなる衝動を堪えながら、必死に視線を受け止める。
大坪からの小さな合図は今までのどんな言葉よりも優しくて、愛しさに溢れていて。
―ちゃんと、分かってるから。
そんな大坪の声が直接耳に届いてくるようで、嬉しさと恥ずかしさが同時に込み上げてくる。
何か、伝えないと―!
意味の分からない使命感に駆られた俺は小さく手を振ってこちらを見るように示し、息を小さく吸って口を開いた。









「…っ」
大坪が小さく息を飲んだのが見える。
しかし、それも束の間の事で、すぐさま視線をしっかりとこちらへ向けて口を開いた。













「〜っ!!」
―反則だろ…!!
いつだって鈍感で、照れ屋なくせに、こういう時だけはきっちり捉えて離さない。
赤くなった頬を隠すように机に突っ伏してみるけれど、心臓が痛いくらいに高鳴って抑えられない。

えすおーえす、体温急上昇。

エスオーエス、君に緊急信号。

SOS、君しか見えません!!

Fin.