「先輩、ゲームしませんか」
そう言って不敵に笑む姿はとても後輩には見えない余裕がある。
あからさまな挑発に、負けじとこちらも片眉を上げて対抗してみるが、その有無を言わさぬ瞳に目眩がしそうだ。
「…僕が楽しめる程度には頑張って下さいね?」
あぁ、もう勝てる気がしない。

"Try,again?"

「まーた負けたのかよ」
「…うるさい、悪いか!!」
背後から笑いを堪えるように声をかけられ、俺は不機嫌さを隠す事なく声を荒げる。
「つか、懲りないよなお前も…仕掛ける赤司も赤司だけど」
俺の両手に抱え込まれた本の山を見やりつつ呆れた表情を浮かべる友人に思い切り本を投げつけてやりたくなるが、後が怖いので止めておく。
「アイツも暇なんだろ…何でも出来ちゃうから」
今回頼まれた本も明らかに高校生が理解できるのか不明な理論書ばかりだ。
一度だけどんな物か覗いてみたが、ドッと眠気が襲ってくるような字面にすぐさま本を閉じた。
「かもなぁ…アイツ、学校来る意味あんの?」
スポーツセンスはもちろん、学力もトップクラスなキセキの世代の元キャプテンだという赤司は、既に完成形だと言っても良いのではないかと思った程だ。
そんな奴が普通の学校(それでも結構ウチの学校は頭が良い方なのだが)に来る必要などない気もする。
「あー…ホラ、前言っただろ、アイツは完璧主義なんだって…だから手は抜かねぇんだよ」
そう、赤司は完璧主義者だった。
何事にも手を抜かず、常に最善の策を練り勝利を手に入れる。
それが奴の『当たり前の事』なのだ。
だから面白くない学校生活も現在の『最善策』として文句を言う事なく優れた成績を残し、常に高みを目指しているのだろう。
隣で話を聞いていた友人に納得したのかしていないのか曖昧な返事を返され、俺は苦笑を溢す事しか出来ない。
所詮、天才の解釈などこんなものでしかないのだ。
手の届く事のない別次元の人間―俺はそんな赤司の存在定義が前から気になってしょうがないのだが。
「…で、お前はその完璧主義者様にパシられてると」
「…っ、これはパシりじゃねーんだって!!」
「これは完全にパシりだろ…情けねぇ先輩だなぁ、お前」
「…しょうがねぇだろ、負けたら言う事聞くってルールなんだから」
―ルールがなきゃ、ゲームになりませんから。
必ずと言って良い程赤司はゲームを始める前にルールを設定してきた。
勝敗の付け方はもちろん、決着が着いた後の褒美についてまでもどちらもがフェアになるようにしていた。
俺にはハンデが与えられるというのが気に食わなかったが、そうでもしないとメッタ打ちを食らう羽目になるので今では気にしない事にしている。
それでも勝てないというのだから、赤司はやはり絶対的な勝者なのかもしれない。
「へーへー、お疲れさーん…お前も何で世話係なんかになったんだよ、面倒臭ぇだろ?」
―またか。
俺が赤司の世話係(と言っても世話をする事は少ないが)をしている、と言うと大抵の者は同情と哀れみの言葉をくれた。
その度に赤司は別次元の存在なのだと疎外しているような感覚がした。
確かに赤司は尋常ではない才能を持っていて、俺も何度もそれを目の当たりにしてきた。
けれど、傍にいて感じたのは『普通の』高校生である赤司征十郎という存在だけだったのだ。
授業がつまらなくてついつい寝てしまっただとか、身長がなかなか伸びなくて悔しいなどと話している赤司は俺らと何も変わらない。
何故そうまでして赤司を特別な存在だとしたいのかが俺は分からなくて、同時に苛立った。
―俺は赤司と対等な関係でありたいんだ。

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