「日向ー!」
大きな手が、俺を呼び寄せる様に大きく振られる。待ち合わせには、まだ五分程あって、それよりも前に鉄平は着いていた訳だ。誕生日なのに、何だか悪い事をした気がする。
「おま、早いな……」
「待たせたら悪いだろ?それに日向、待ってるの嫌いってこの前言ってたじゃん」
「あー、そうだっけ?……まあ、お前が良いなら良いけど」
隣に並ぶと、やっぱり身長差が気になってしまう。俺は少しだけ前を歩いて、階段を上った。
「そういやさ、何でこんな所、急に行きたくなったんだ?」
後ろに続く鉄平が、当たり前の疑問を口にする。
「本にたまたま載っててさ、行ってみよーかなって思って」
「ふうん」
もう一つだけ理由はあったのだが、それはサプライズにしておこうと思う。
最後の一段を上りきり、俺は鉄平の手を引いた。いつもはこんな事、絶対やってやらないが、今日は特別だ。そういう事にしておこう。
「……日向?」
キョトン、とこちらを見つめる瞳を無視して、俺は前へ進む。
もう、言ってやっても良いだろう。
「…………ここ、健康とか、手術とかが成功しますようにって沢山祈願してるんだってさ。だから、お前のも早く治りますように、って祈願しに来た」
「日向……」
鉄平の表情が、満面の笑みになる。付け焼刃な計画だったが、喜んでもらえたらしい。
ぎゅう、と鉄平に突然抱き締められて、一応抵抗する仕草を見せる。人気も無かったし、コイツの誕生日だし、などと自分に言い訳をする。嬉しい、なんてのは絶対言ってやるつもりは無い……今の所は。
「俺、スゴイ嬉しい……!ありがとな、順平」
「別に、何となくだし……つか、さりげなく名前で呼ぶなよ」
「良いじゃん、嬉しいんだもん」
ちゅ、と額にキスをされて、俺は目を瞑る。鉄平のキスは、いつも柔らかくて、優しい。俺も返してやりたいが、額までの距離があいにく遠いので黙ってキスを受け入れる事にする。
「ちゃんと、祈願して、お守り買って帰んぞ」
「うん」
「お前、ちゃんと自分の事、願えよ」
「……うん、それから順平の分も」
「俺は良いっつの。お前のが大事」
「……でも」
「じゃ、二人分」
「ん!」
ニコ、と笑う鉄平に、俺は溜息を吐く。完全にコイツを甘やかしている。
―ま、いっか。誕生日だし。
また適当に言い訳をして、俺達は鳥居をくぐって賽銭箱まで向かった。
来年もこうして来られると良いな、と思ったのは俺だけの秘密にしよう。
Fin.

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