おや、と思ったのは中の人間が不安げに同じ場所を歩き始めたからだ。どうやら火神君の攻撃がなかなかに効いているらしい。
本人はデコイだと気付いていないそうだが、まあ気付いたところで彼の闘争心は変わらないと思った。
「さて、僕も始めますかね……」
動揺は、人間に伝わるのが早い。その後の行動は、警戒心を高める場合と、混乱を招く場合の二つに分かれる。今回は、前者だ。
彼らはまだ、戦う事に慣れていない。この組織はおそらくフェイクで、裏に巨大な組織の存在を窺わせる。
僕は、素早く部屋へ下りると、影へ隠れる。丁度、金庫の位置が排気口の後ろ、という所も素人臭さを感じさせる。僕は前に立つ男の急所を狙ってワイヤーを伸ばして首を折る。抵抗の声も、叫び声も上げさせない。
僕は直ちに次の動作に入る。こちらに振り返った兵を一人、手刀で昏倒させ、手首を縛る。即座に次の兵達にも同じ要領で捕縛する。
なるべくなら人は殺さないように、というのが相田准将の命令だった。
末端機関でも少しは情報を持っているだろう、と考えているのだろう。彼らが准将達の望む情報を持っているとは到底思えなかったが。
僕は、金庫へとゆっくり向かう。この部屋に入ってくる人間はもういない。金庫開錠の準備をササッと済ませ、カチリ、と金庫を開ける。中身を確認すると、僕はそれを持ってまた排気口に戻る。
爆音が近くまで来ている。きっとここにも火神君達が来るに違いない。そうなれば、僕の役目は終わりだ。
外へと繋がるダクトを慎重に這いながら、僕は排気口を少しだけ強めに力を入れて開けた。ガコン、と音がしたがこれくらいの音に気付く者はこの周りにはいないだろう。あっちが派手にやってくれたおかげだ。
帰還したら、ハンバーガーでも奢ってあげようかと思ったが、彼の消費量は半端が無いので僕には無理だと考えを改める。ハンバーガーショップに誘うだけにしよう、そうしよう。

ガン、と最後の扉を開けると、拘束された四人の男達を見つける。
―黒子のヤツ、先にやっていきやがったな……!
アイツはいつだって特殊任務に就いているのは知っていたが、俺の対抗心がそれを許さない。キレイに閉じられている金庫の中身ももう空になっているに違いない。同じ軍に所属しながらも、どこか違う雰囲気のする黒子に形容しがたい苛立ちを感じながら、無線を入れた。
『全部屋制圧完了!帰還する……です!!』

俺は拘束された男達を連行する様に指示して、部屋を後にする。黒子に会ったら、絶対何か言ってやろう、と思いながら。
Next