「とにかく、何かあったら言えよな……っと、噂をすればだ」
肩をポンと叩かれ、指差された方を見れば、見知った紅の瞳とぶつかった。
「先輩、遅いですよ」
「おぉ、悪い…なかなか見つからなくて時間かかった」
「無駄話をする余裕はあるのに?」
鋭さの増す視線に取り敢えずもう一度謝って赤司の隣まで行けば、さも当たり前のように腕を取られた。
「僕の言った事を片手間にやるなんて信じられません」
「悪かったって言ってんだろ?ちゃんと教室まで持っててやるから…な?」
コツンと空いた手で額を小突いてみるが、赤司の眉間には皺が寄ったままだ。
こんな風に意外と子供っぽい所があるのだって、奴らは知らないに違いない。
「…ちゃんと、付いてきて下さいね」
「はいはい、もちろんだよ…って事で悪いな」
後ろで何故か口を開けてボンヤリとしている友人に声をかけて再び歩き出す。
赤司はと言えば、先程までの不機嫌さはどこへ行ったのやら不敵な笑みを浮かべて隣を歩いている。「先輩」
「はいはい、次は何だ…これ以上本は持てねぇよ?」
「本はもういいです」
トトッと数歩先に出た赤司の背中を見つめながら、これじゃあまるで王子と従者じゃないかと思う。
―俺はお前の隣で歩きたいのに。
「顔に出やすいんですね、先輩は」
「は?」
笑いを隠せないといった風に肩を揺らす赤司の言葉の意味が分からず聞き返してみるが、返事をする気がないのか赤司は俺を無視して話を続ける。
「ポーカーフェイスの方が試合の時は有利だけど、まぁ先輩には先輩なりの戦い方がありますし…というより僕がそう望んでるんだから変わる事はないですね」
「だから、突然何なんだよ」
「今は分からなくて良いです」
バッサリと切り捨てられ、これ以上この話を続ける事が出来なかった。
何を考えてるか分からない、本当に不思議な奴だ。
それから暫く無言が続いて、気付けばあっという間に1年の棟まで来てしまった。
「ほら、着いたぞ」
「ありがとうございました」
律儀に礼を言ってくる辺りが赤司らしいな、と思いながら俺は本を渡す。
「じゃ、また部活の時な」
世話係といっても基本は部活でしか会わないし、ましてや学年が違うとなかなか校内で会う機会も少ない。
―寂しい、なんて変だよな。
最近、赤司に対する俺の感情が変化しつつあるのは気付いていた。
けれど、それを口にするのは間違っているような気がして、俺は『情けない先輩』の役に甘んじている。
―結局、俺も他の奴らと一緒じゃねぇか。
赤司を『天才』という別次元の存在にして、自分が傷付くのを避けようとしている。
「…先輩、」
モヤモヤとし始めた頭を横に振り、そろそろ戻ろうかと背を向けようとした所でいつもならさっさと本を持って教室へ入ってしまう赤司が何か考え込む様子で俺を呼んだ。
「ゲーム、しませんか」
「また、か?」
1日に二度も勝負を仕掛けてくるのは珍しかった。
だが、どんな理由があるにしろ、赤司が一旦そう言い始めたら俺に拒否権は無い。
肩を竦めながら、俺は赤司に先を話すよう促した。
「今回はハンデ無しで」
「ハァ…?!俺に負けろって言ってるようなもんだろ!!」
「流石にそこまで馬鹿じゃないんですね」
「…お前、楽しんでるだろ」
口角を上げて優越感たっぷりに笑う様を見ながら俺はガックリと肩を下げる。
これでは完全にパシリだ。
俺の様子を気にする事なく赤司は今回のゲームを口にする。
これまた赤司の得意なリバーシを設定され、俺の勝ち目は完全に無くなった。
「ルールは、そうですね…負けた方が質問に必ず答えるって言うのでどうですか」
「あー…うん、それで良いんじゃね」
頼み事があるからこんなルールなんだろう―俺はそう無理矢理こじつけて放課後に、と言って教室に入っていく赤司を見送った。
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